マリオネット
(後篇)
「ご主人様」
朝、定時にM1はやってくる。
目覚し時計でことが足りるはずなのに、何故私はM1を作ったのだろう。
「M1、おはよう」
私は微笑む。
「おはようございます。ご主人様」
M1もにっこり微笑む。
ああ、M1は昨日道徳真君が持ってきた服を着ている。
「似合ってるね、M1」
「はい」
「嬉しいかい?」
「申し訳ありません、主語を明確に……」
「M1、登録しなさい」
「かしこまりました」
「スポーツ莫迦から服を貰ってM1は嬉しい」
「登録完了しました」
「嬉しいときは笑うんだよ、M1」
「はい」
「M1」
「はい」
「M1は服を貰って嬉しいかい?」
「嬉しいです、ご主人様」
M1はにっこり微笑む。寂しさを感じながら太乙真人はM1に微笑みかけた。
設定してやらなければ、登録してやらなければ、M1は何も出来ない。
当たり前じゃないか。機械なんだから。
機械が機械であることにいらついたってどうしようもない。昨日の自分はきっとどうかしていたんだろう。
「M1」
「はい」
「コーヒーを持ってきて」
M1を作ってから久々に穏やかな朝を過ごしたような気がした。否、違うな。
M1を起動してからまだ3日目じゃないか。太乙真人は笑う。自分が無理に笑顔を作っているような気がしたが気にしないことにした。
M1は上出来だ。
「太乙ー!」
玄関先から声がする。今日も今日とて道徳真君はM1に会いにやってくる。
本人が、M1が機械だと承知しているのなら、せいぜい夢でも見てるがいい。
「M1」
コーヒーを届けたM1に太乙真人は命じる。
「スポーツ莫迦がきたよ。お出迎え」
「かしこまりました」
きっと道徳は喜ぶだろうなと太乙真人は思った。
「ああ、俺の贈った服着てくれたんだ」
「……」
「どうかな?M1」
「はい」
「ええと……M1、喜んでもらえたかな」
「嬉しいです、スポーツ莫迦様」
「そうか、良かった。でもM1、俺の名前は違うんだけど」
「俺とは何ですか?」
「M1、俺はスポーツ莫迦じゃなくて道徳というんだ」
「俺とは何ですか?」
「え?……だから俺」
「……」
名前を呼びかけなければM1には届かない。道徳真君は全くかみ合わない会話を喜んだり困惑したりしながら続けている。
「道徳、一人称じゃ、これには届かないよ」
何度も同じ間違いを犯す道徳真君にうんざりして太乙真人は口をはさんだ。M1は太乙真人の声に反応して振り返る。
「ご主人様」
そして、にっこり微笑んだ。
――なんだこの微笑みは?
どきりとした。
こんな局面で笑うように太乙真人はM1を設定していない。バグだろうか。否、それを言うなら、M1は名前を呼ばれない限り反応しないはずだ。
「なんだ、太乙聞こえてたのか、俺はてっきり宝貝の設計図でも書いてるのかと思ってた」
良くわかってない道徳真君は照れたように笑った。
「これはまだ試作品だからね。色々とバグが出るんだよ」
「バグ?」
「つまり、誤作動だね。プログラミングのミスだよ」
「ふーん。でも別段変わったことなんかないぞ」
道徳神君はきょとんとしてM1を見る。
「M1、具合が悪いのか?」
呼びかけられてM1は道徳真君を見た。
「いいえ。スポーツ莫迦様」
「これにはプログラムのミスは判らないよ」
いいながらなんとなく太乙真人はM1に目をやった。
M1はじっと太乙真人を見ていた。
――まただ。
さっきまでは道徳真君を見ていたのに。
「道徳、ちょっと、声出してみて。これの名前を呼ばないで」
「は?声?」
違う。M1は反応しない。どうやらM1は太乙真人の声にだけ反応するようだ。
――声紋の分析は確かに搭載したけど――
あれはあくまでも補助的なものであったはずだ。
否、プログラムのミスはちょっと考えづらいような問題まで引き起こすことがある。これもまたその一つだろう。それに、これは放っておいてもたいした問題じゃない。
「それより太乙。おまえいいかげんに俺の名前変えろよ」
「……え?何?改名するの道徳?」
突然聞こえた道徳真君の声に太乙真人はきょとんとする。
「違うだろ。お前が彼女に覚えさせた名前だよ。全く」
「ああ」
くすっと太乙真人は笑った。やはり、いたずらが過ぎただろうか。
「M1」
「はい」
「登録内容の変更」
「かしこまりました」
「これの名前。スポーツ莫迦から道徳に」
しばらくの間。
「変更、完了しました」
太乙真人はにこりと笑う。
「M1」
「はい」
「これの名前は?」
道徳真君を指差して。
「道徳様です」
「ほら、これで満足?」
道徳真君は複雑な顔をして呟いた。
「太乙の言うことなら良く聞くんだよな」
太乙真人は笑う。
「それは、道徳がちゃんとこれに命令を与えてないからだよ」
それに首を振って道徳真君は言った。
「いや。M1はきっとお前が好きなんだよ」
やけにまじめな顔で道徳真君は言った。
「はい」
M1の声に一瞬二人は沈黙する。
それから少しして太乙真人は笑った。
「違うよ。今のは君が不用意にこれの名前を呼んだからそれに反応したんだ。M1はホントの意味で誰かを好きになんからないよ」
道徳真君はしばらくじっとM1を見ていた。
「なあ、太乙。明日一日、M1を俺にくれないか?」
「はい?」
「一日、二人っきりでいたいんだ」
「それは……」
太乙真人はちょっと口ごもる。
「了解できないな。言っただろうM1は試作品だ。バグが多い。さっきのはあんまり実害なかったけど、極端な話、いきなり殴りかかってくるかもしれないんだぞ」
「大丈夫だ、よける自信はある!」
道徳真君はきっぱり言い放つ。
「今のはただの例だよ。ホントに殴りかかってくるかどうかなんて判らないさ」
「たいていのことなら大丈夫だ」
「じゃあ、たいていのことじゃなかったら?」
「M1にやられるなら本望だ」
莫迦だね。
「おかしくなったらすぐに私のもとに連れて来るんだよ」
「じゃあ、いいのか?」
太乙真人は無表情で道徳を眺め回した後、こくりと頷いた。
「ただ一つだけ、言っておくけど」
「判ってる。M1は機械だって言うんだろ」
「うん。だからセックスなんかできないよ」
「なっ!」
次の瞬間道徳真君は飛びのいた。
「なんてこと言うんだ!女の子の前だぞ!考えろ、莫迦!」
莫迦に莫迦といわれた太乙真人は少しだけむっとする。
「私はただ君に現実を……」
「そっ、それにだなっ!」
聞いてない。
「俺たちは仙人だ!仙人がそんなことしていいわけがないっ!」
じゃあ、どうして竜吉公主が生まれたんだろうねぇと太乙真人は密かに心の中で呟いた。きみはキャベツ畑の神話でも信じているのかい?
「だいたい、こんな可憐な少女にそんなことを考えるなんて、野蛮だ!破廉恥だ!駄目だ!」
最後の駄目がなんか語感的に決まってないよ。
それに。そんな可憐な少女にそんなことを考えるから男なんじゃないか。
「君、性欲とか、ないわけ?」
ちょっとした興味に駆られて太乙真人は問う。
「それをスポーツで押さえ込むのが仙人と言うものだろう!」
そうか、スポーツか。
意味もなく納得して太乙真人は頷いた。
「まあ、いいや。じゃあ、明日一日これのこと頼んだよ」
太乙真人はそう言ってなんとなくM1の肩を叩いた。とたんM1はぐらりと崩れる。
――あれ、M1、横からの刺激には脆いんだ。設計ミスかな――
M1はバランスを立て直そうと横にいた太乙真人にしがみつく。抱きつかれた格好になってM1と目があった。
ただの硝子球。おくにはカメラが仕込んであるだけなのに。
どきりとするほど深い瞳だった。
一瞬、飲まれそうになる。
視線を感じて太乙真人は道徳真君のことを思い出す。
「なんか、バランスが悪かったみたいだね」
言い訳してるような気がした。
道徳真君は太乙真人の声など聞こえていないようにM1をじっと見つめる。
「M1」
「はい」
「太乙と離れるのは嫌か?」
M1の中で高スピードで流れる電子の粒。答えは決まっている。そんな問題は登録していない。
だから――
「はい」
違う。
「違うよ。違うんだ。これもバグなんだ。よくあることなんだ。これに意思なんかないんだから。いいよ、明日つれていきなよ、どこにでも」
「太乙――」
「私がこれを作ったんだよ。だから断言できる。これは機械なんだ。君は夢を見るといい。でも私にはみれないよ」
「しかし」
「連れてってくれ。少し一人で考えたい」
しばらくの沈黙の後、道徳真君は言った。
「判った、じゃあ明日迎えに来る」
それから、M1に一言。
「ごめんな」
なんだよ。何で謝るんだよ。機械なのに。
M1は機械なのに――
夜、M1の作った夕食を太乙真人は食べる。命じなくてもM1は夕食を作る。そして太乙真人を呼びに来る。そう、プログラムしたから。
M1は太乙真人の側に立っている。じっと見ている。太乙真人はその瞳を見るのが怖いような気がして無理矢理に食事を胃に詰め込んだ。
何の味もしなかった。
しばらくして彼は箸を置く。
「ねえ、M1」
「はい」
「さっきのことだけれど、あれは……」
「……」
M1には声が届かない。
「M1」
「はい」
「私のことが好きかい?」
「……。その情報は登録されておりません」
「……。そう」
太乙真人はM1を見る。硝子球の瞳。深くなんかない。その奥にはカメラがあるだけ。
「ねえ、M1」
「はい」
「……キス、しようか」
「……」
「M1」
「はい」
「おいで」
近くにきたM1の髪を掻き揚げて。その硝子の瞳を覗き込む。
「M1、目を閉じて」
冷たい、合成樹脂の唇。その奥にはスピーカーがあって。表情を動かす歯車が回っていて。わかってる。全部知ってる。自分が作ったから。
それから彼は強くM1を抱きしめた。M1がバランスを崩すのもかまわずに。
「莫迦だね、M1」
「はい」
「君は機械なのに」
「……」
「……M1、登録して」
「かしこまりました」
「M1は道徳が好きだ。道徳と一緒だとM1は嬉しい」
無限とも思える一瞬の間。
「登録、完了しました」
太乙真人はM1を離した。
「M1、明日は起こさなくていいよ」
「かしこまりました」
「それから、M1」
「はい」
「明日は道徳の言うことを聞くように」
「かしこまりました」
きっとこれでいいんだと、彼は思った。
M1が悲しそうに見えるのも、だからきっと気のせいだ。
翌日、太乙真人は遅くに目を覚ました。
すでにM1はいなかった。
自分で命じたことなのに、恋人に裏切られたようなショックを感じて、彼は自嘲気味に少し嗤った。
苦いコーヒーを飲み干して、彼は久々にラボに足を踏み入れる。
全然集中など出来なかった。
何故私はM1を作ったのだろう。
夕方近くに道徳真君とM1は帰ってきた。
M1は道徳真君と手をつないでいた。
M1は笑っていた。道徳真君も笑っていた。
太乙真人はお帰りと言った。自分が微笑んでいるのが不思議だった。
「ご主人様」
M1は微笑む。
「M1、道徳と一緒でM1は嬉しいかい?」
「嬉しいです。ご主人様」
M1は微笑む。
道徳真君はなぜか悲しそうな目でM1を見た。
「太乙、おまえ、彼女に何をしたんだ」
「別に何もしてないよ」
道徳真君と目を合わせないように太乙真人は答える。
「……何か、あったのかい?」
「悲しそうなんだよ」
「笑ってるじゃないか」
「笑ってても泣いてるだろ!」
何言ってるんだ、この男は。
太乙真人は黙ってM1を見つめた。
微笑んでいるM1。
「じゃあ、道徳がそう思うだけだろう。私にはそう見えないよ」
「何で見えないんだよっ!」
道徳真君につかみかかられて太乙真人はよろけた。思わず声を荒げる。
「なに機械相手にムキになってるんだよ。もう、人形ごっこする年でもガラでもないだろう!これに夢見たいんだったら一人で見ろよ。私を巻き込むな!」
――違う。巻き込んだのは、私だ。
ああ、イライラする。
「おまえ、いい加減に――」
道徳真君はこぶしを振り上げる。
なんだよ。私を殴るつもりか?暴力でしか自分を表現出来ないガキみたいに。
一瞬早く太乙真人はそれをよけた。
「相変わらず、逃げるのだけは得意だよな」
「私は肉体派じゃないからね。そういうの、嫌いだよ」
莫迦莫迦しい、ただの機械になんでこんなに――
「M1を傷つけるな」
押し殺した声で道徳真君は言った。
太乙真人はちらりとM1をみる。
「M1」
「はい」
「M1は傷ついているの?」
「……。そのような情報は登録されておりません」
太乙真人は肩をすくめる。
「そういうことだ」
残酷な気分だった。
うなだれている道徳真君を置いて太乙真人は身を翻す。
友人を一人、失ったかもしれない。そう思った。
「なんだ、M1着いてきてたの」
部屋に戻ったところでM1がなぜか着いてくることに太乙真人は気がついた。
また、バグだろうか。もう、どうでもいい。
「もういいよ、私は寝るだけだから。M1、下がりなさい」
M1は動かない。返事もしない。
――なんだ?故障か?
「M1」
「はい」
「ちょっと、中見せて」
太乙真人はM1を抱き寄せるようにして、白いワンピースを捲り上げる。
背中の、確かこの辺に扉が――
「ご主人様」
え?
「あ――」
あ?
「あい――」
?
ああ、もう。完全に、壊れてるじゃないか。道徳の奴こそM1に何したんだ。
「あい――し――て――る」
M1……?
そんな単語、登録してないだろう?
――道徳?否。新しい単語の登録は私の権限がなければ出来ないはずだ。
「ごしゅじんさま――あいしてる――」
「M、1」
太乙真人はゆっくりとM1から身を離した。瞳を覗き込む。
――君は、機械なんだから――
「ご主人様」
M1は微笑む。
「愛してる」
ただの電気信号。ただの機械。ただのバグ。
否。だけれど――
――人間の意志とて脳の中で生じる微弱な電流によって形成されるのではなかったか――
「M1、君は――」
――嫌だ。もう、耐えられないよ。
君は機械なのに、どうして機械でいてくれないんだ。
太乙真人は再びM1を抱きしめる。
そして。
「M1」
「はい」
「私にマリオネットは必要ない」
次の瞬間、M1は崩れ落ちた。
M1の開発で、もっとも力を注いだのは言葉だった。
だから、M1の自爆スイッチも音声で入力するようにしてあった。
なぜ、家事ロボットでしかないM1に自爆スイッチなど仕込んだのだろう。
ひょっとしたら、私はこの結果を、あの時すでに予期していたのかもしれない。
ガラクタと化したM1を抱きしめたまま、太乙真人は動けなかった。
夜が更け、朝がきて、やがて道徳真君がやってきた。
「道徳、M1が壊れちゃったよ」
M1を抱きしめたまま、部屋まで上がりこんできた道徳真君に太乙真人はそう言った。
「私がやったんだ」
誰も、何も言わなかった。
二人がかりでM1を乾元山の池に沈めた。道徳真君がどこからか睡蓮を持ってきた。それから黙って池を眺めていた。
静かな水葬だった。
☆
どうして私はM1を作ったのだろう。
便利な道具が欲しかったから?
淋しかったから?
話し相手が欲しかったから?
身の回りの世話を焼いてくれるような、そんな相手が欲しかったから?
そう、きっとM1に夢を見たかったのは私なのだ。
だけれど私はM1が機械でしかないと言うことを、嫌と言うほど知っていた。製作者に夢は見られない。否。私はきっと夢を見るのが怖かった。それが覚める瞬間を恐れていた。
だから、私の前でいとも簡単に夢を見た道徳が憎らしかった。
そのくせ私は臆病で、M1が見せてくれようとした夢を拒絶した。
M1を、愛していたから。
☆
「もう、作らないよ」
風が吹く、水面を揺らす。そこには一面に睡蓮の花が咲き誇っていた。夕日の光は鮮やかに睡蓮たちをそして水面を照らし出す。どこか悲しく美しい風景。
まるで――M1のように。
「人型のロボットなんか、もう作らないよ」
誰にともなく、太乙真人はいう。
M1に意思があったのか、本当のところ太乙真人にはわからなかった。否、もう何も考えたくなかった。
「作れよ」
振り向けば、道徳真君が立っていた。
「作って、今度はちゃんと愛してやれよ」
「君は、私のことを恨んでたんじゃないのか?」
「そんなの、昔の話だろ」
太乙真人は再び水面を眺める。
「M1は、そこにいるよ。道徳は――M1のことを忘れたのか?」
「忘れない。誰かが覚えててやらなきゃ、かわいそうだろ」
「私だって、忘れることはできないよ」
ぽんと、道徳真君は太乙真人の方に手を置いた。
「だったら、余計作ってやれよ。M1のために」
M1のために――
☆
それから。
それから――
☆
「あれー。道徳様もいらっしゃってたんですか」
晴れた日の午後。さわやかな風とともに白い犬に乗った道士は乾元山に降り立った。
「ああ、楊ぜんじゃないか」
道徳真君が笑って出迎える。
「太乙様、師叔から託です」
青い髪、白い頬。この道士の顔を見ると太乙真人は今でもどきりとすることがある。
「なんですか、太乙様。僕があんまり美しいからってじろじろ見られても困ります」
「君もいい加減、口が減らないね。玉鼎の弟子とは思えないよ」
太乙真人はくすっと笑った。なんだか楊ぜんは全然M1に似ていない。
「太乙様にそんなこと言われるとは心外ですね。師匠と一緒だと僕がしゃべらないと間が持たないんですよ」
「それも道理だね」
「何してらっしゃったんですか、お二人で」
楊ぜんは無邪気に話し掛ける。それから、どうやら今初めて目の前に広がる睡蓮の花々に気がついたらしく「うわぁ、綺麗」と歓声を上げた。
「今日、命日なんだ、だから花を、ね」
「え?」
楊ぜんはきょとんとする。
「恋人の命日なんだ」
「それは……」
すみませんと、楊ぜんは申し訳なさそうに謝った。
「いいよ。君に謝られると変な感じがする。長く生きてると、いろんなことがあるんだよ。それに……昔のことなんだ」
「その人……ここに眠ってるんですか?」
「うん。君に似てた」
楊ぜんはきょとんとして太乙真人を見た。
「冗談だよ」
太乙真人はくすくす笑う。
「それより楊ぜん。私のナタクはどうしてる?」
親莫迦の顔を覗かせて太乙真人は尋ねる。と、楊ぜんはわずかに顔を曇らせた。
「ああ、そのこともご相談しようと思ってたんですけどね、太乙様」
「なに?何か問題?」
「言いにくいんですけど、あの。西岐城の修理費を乾元山に請求してもよろしいでしょうか?」
「なんだって!」
真っ青になった太乙真人を眺めながら、たまらず道徳真君は笑い出した。
そんな騒ぎも知らず、青空のもと水面を埋め尽くすように、睡蓮の花は穏やかに咲き誇っている。
end.
novel.
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